さざなみプロダクション

さざなみプロダクションの平社員による日記

幼いころから手がコンプレックスである。おそらく人生最古のコンプレックスだと思う。私の手は人と違った。長いこと太ってたから、いまよりさらに見栄えが悪かったというのもある。

目立つ特徴があるというよりは、肌色やしわ、皮膚の質感そのものが綺麗ではないことがずっとコンプレックスだった。改善方法を調べたこともあったが、親や姉妹の手を見てもそもそも遺伝なのがまるわかりであまり改善の見込みはなかった。

ずっと手を握ったり手を見せたりするのが非常に苦痛であったが、手は人体の中で比較的ガードが緩く、他のパーツと比べて人目にさらしたり触れられる機会が多い。ああ苦しい。

だからどんなにかわいいネイルをしても、おしゃれなドリンクの写真を撮っても、間違っても手が写らないように生きてきた。

 

前職の同僚に信じられないほど肌が綺麗な子がいた。おっとりした容姿と仕草はまさに大和撫子といった雰囲気で、よく手入れされた肌はいつも白く美しかった。

で、その子の手がこれまた信じられないほど美しかったのである。

もう造形はよく覚えていないが、書類の受け渡しかなにかの拍子に触れたその手がありえないほど白くなめらかで皮膚が薄く体温は低く指は細く爪は小さく、私は叫びそうになった。その瞬間は素敵だとか羨ましいとかではなくてなんか、うわ!ど……どうしよう!みたいな。

すぐあとに、同じように彼女の手に触れた先輩の女性社員が「うわ!○○さんの手すっごく綺麗、びっくりした……!」と声を上げたあと、真剣なトーンで「この手は気安く人に触らせちゃダメだよ、価値をわかったほうがいい」と言っており、ジョークとしてとらえたその子は照れ笑いをしてその場は少し和んだが、私は深く納得したのである。

そう。そういうレベルだった。

はじめましてよろしく~、とかで触らせていいものではなかった。それくらいに美しく、繊細で、武器になり得るものだった。

 

あれより美しい手に出会ったことはない。

もうこれから先、出会うこともないと思う。

彼女とは転職し疎遠になったが、あのあと結婚し子育てをしているようだから、もしかしたらあのときよりは生活に根差した手になっているかもしれない。

たまに思い出してぞくっとするほど美しい手だった。

 

なので私は、正直なところ、吉良吉影の気持ちが少しだけわかっている。

 

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