さざなみプロダクション

さざなみプロダクションの平社員による日記

主人公の『傲慢』について

これはCoCで遊んでもらったときの感想であり、私のキャラメイクの記録です。これから遊ぶ予定の方は、以下、特に感想パートは読まないことをおすすめします。いつものことながら、気にしない場合はかんたんな読み物としてお楽しみいただけます。

とても長いので興味のあるところだけ拾って読んでいただいても問題ありません。

はじめに

新しくCoCのセッションに誘ってもらったとき、私はちょっと元気な時期だった。私は周知のとおり厄介なほどの繊細さん(悪口)であり、傷つきやすすぎるために映画や小説に触れるとき慎重になる。とくに自作のキャラクターを連れていくシナリオとなると非常に注意深く予防線を張ってあれこれとお願いをし、巧みにちょうどいいやつを選んでもらうのが常であった。苦手な展開が多すぎるので、うっかり手を出すと大火傷しかねない。

 

これ書いてて思ったけどよく遊んでくれるなぁ……。感謝しないとね。

 

しかしそのときは夏の暑さでイライラしていたからか、やや気が大きくなっており、今ならグロ以外なんでもいけます!と宣言した。ただ暑さでイライラしていたので、恋愛感情がメインじゃないほうがいいです!とも言った。暑すぎて壊れた私の頭でセンチメンタルを感じることは無理だったのだ。あと、探索多めにしたい!ともお願いした。(注文の多い料理店?)超ド級初心者の私はこれまでどちらかといえばキャラクターを持ち寄って会話するゲームをチャットの延長で楽しんでおり、TRPGの醍醐味であるダイスを振るとか探索して謎を解くとかそういうゲーム性のほうをあまり重視できていなかったと思っていた。これまでわりと切ない雰囲気になるエピソードを好んできたし、今回はいっぱい喋っていっぱい動いて謎を解くぞ!というのをやってみたいと思ったのである。
そしていくつか候補を挙げてもらった中にあったのが「The Brickbury(ドナルド・ウェルズリーの午前2時に開く映画館)」であった。雨降るレンガづくりの街で住民たちの噂を取材する新聞記者二人組。最高。ディズニー、カートゥーン、シャーロックホームズ好きの私おおよろこび。

 

キャラづくり

はい!わたし記者を作ります!
ルックスは前からストックしていた子がいたのでそのまま使った。私は緑の目の男が大好き。
前述のとおりいっぱい喋りたかったので、セリフが出やすいような、キャラ立ちするような性格を付けたいなと思って「甘党で倹約家」とした。倹約家といってもお金を出し渋るようなやつは好きになれないので、どちらかといえば『賢く暮らすのが好き』くらいか。お金を大切に使って、お買い得な旬の食材を買い、日々の暮らしを楽しむ。早寝早起きして窓にお花を飾ったりする。生活を愛している子がいい。そうなるにはお金の価値を知るきっかけがあっただろうなと思い、貧しい家の出身で若いうちから働いているという設定にした。きっと新聞売りのニュースボーイとかを経験して、いまの新聞社で記者になったのだろうな~みたいな。幼いうちに裕福な親戚に養子として引き取られた妹がいる。それを悲しむとか恨むとかではなく、自分とは違う町で暮らす妹の生活も大切に思っているだろうな。
いいね、健やかでかわいいかもしれない。
名前はあまり男性的な響きが似合わない気がして、でも可愛らしすぎるのもなあと思って、リオとつけた。レオナルドの愛称。私は本当に英語名を付けるセンスがなく大変苦しんだ。ファミリーネームはいっこも出てこなくて苦し紛れに好きな画家にした。リオ・ターナー。みんなもターナー好きでしょ。最後まで迷ったのは「リオ・アップルフィールド」。かわいいと思って。

 

後輩くん

シナリオに入る前に後輩くんの話していいですか?うん、ありがとう。
このシナリオの登場人物は記者二人組なのである。つまり私が作ったリオには行動をともにする後輩がいる。私はお相手が作ってきてくれるキャラクターをいつもとても楽しみにしているのだが、今回タイムラインにポンっと登場した後輩くんを見た私の第一声は「ガチ恋しそう」だよ。ごめんね。めちゃくちゃかっこよくてむりでした。恋愛感情に頼らないシナリオがいい!などと言っておきながら私は後輩のジェラルド・フィッツジェラルドくんに一目惚れしたところからはじまっており非常に分が悪い。キャラクターシートを読む限りジェラルドくんはおそらく金持ちの家の息子であり金にそこまで困っておらず仕事にそんなにあくせくしていない。
わあ!気が合わなそう!!わあ!!!顔がかっこいい!!!!

 

感想

はじまります。
以下ネタバレばかりです。

 

後輩くんに対して

締め切り前の編集部、進捗を聞かれて困るリオ。初登場のジェラルドくん、紙飛行機飛ばしてて最高。三番目の彼女にしてほしい。
ジェラルドくんにガチ恋しかけている私がリオ・ターナーとして心がけていたことは、彼に仕事仲間として接すること。たぶん何もない状態で友人となったふたりだったら嚙み合わないところが多すぎて付き合いは続かないだろうと思っていた。でも、職場ではそういうことって珍しくない。生まれも育ちも考え方もぜんぜん違う人間が隣のデスクに座っていて同じ仕事を分担するなんてことは日常茶飯事である。
リオはたぶん自分はやらないけど、彼のデスクが散らかっててもたばこ吸っててもいいのだ。仕事仲間だから。仕事仲間としてなら、愛想がよくて自分に懐いている青年はかわいい。うまくやっていけるだろう。
だから彼が取材にやる気を見せれば先輩として嬉しく思ったし、取材中も何度か「どう思う?」みたいに意見を求めたし、ジョークを飛ばして「捕まる時は一緒だよね」に対して「あー……仕事中はね」とか。仕事中は自分と彼は運命共同体なのだ、という意識があったと思う。ちょっと冷たいだろうか。いやそんなことはない。私はジェラルドくんにベタ惚れなのである。これはリオの意識の話です。

 

しかし、しかし。

 

取材帰りに雨の街で「水たまりがあるから足元に気を付けて」と言ったとき、これは本心からというか、素で言った。仕事仲間へのねぎらいというよりは彼の人間的な本心で、ただの挨拶と同じで、水たまり踏まないでねって気持ちで言ったことだ。そりゃ踏むより踏まないほうがいい。それに対してジェラルドくんが「なんで?靴が汚れたら磨いてもらえばいい」って言ったとき、私は心のど真ん中に円柱型の黒いなにかがズドンとはまったのを感じた。わかりにくい表現。なんていうか、お互いの違いに目をつぶってうまくやりとりをしていたつもりだったんだけど、ふいに隙をついて心の底まで貫くような『違い』がどかんと襲ってきてビックリしたのだ。すっげえ。これ、どっちも悪くないからすごい。
彼にとってもしかしたらそれは「仕事を与える」という意味を持つことかもしれない。靴もきれいになるし相手も儲かってwin-winでしょみたいな。たしかに靴磨きの少年にとって街行く人の靴が汚れなくなったら商売あがったりだ。うーん。
リオは困惑し「靴を磨いてくれる人だって別に、お前の靴が濡れてうれしいわけじゃないだろ。儲かるかもしれないけどさぁ」と言った。私だったら「お大事にって言う医者はあなたがまた風邪ひいてくれたら儲かるって思ってるわけじゃないでしょ」とか言うかもしれない。
「もっと根本的にこう……あの人濡れないで家に帰れたらいいなみたいな…………まあいいや」
あ~~諦めちゃった。
リオ!がんばって!!
なんかそこにある、社交辞令とも違う、なんか、祈りというか、気軽なおまじないみたいな気持ち。おやすみいい夢を、とかそういうことなんだけどなぁ……。
後輩くんはめちゃくちゃかっこいい顔でしげしげとリオを眺め、言った。
「チョコレート、いらなかった?」
この言葉の意味が瞬時に理解できず、私もリオも「???」みたいな顔をしてしまった。チョコレートというのはさっきジェラルドくんが甘党のリオに「ご機嫌取り」と称して渡してくれたチョコのことだ。これはいま思えば「さっきのチョコみたいな『見返りを求めたギブ』には価値がないということ?」って訊きたかったのかな。えーん。ちょっと違うよお。ちゃんと嬉しかったよお。


ここの微妙にお互いの言いたいこと飲み下せてないけど歩み寄ろうとする二人の会話、本当によくて、私は「これこれ!!!!!」と思った。お互いに完全に理解はしてないんだけど「センパイが機嫌よければ俺が嬉しい」「俺もお前のかっこいい靴が濡れないほうが嬉しいよ」というこの、思いやりの応酬。わかりあうよりときに難しい、相手をわかりたい、相手のために優しくしたいという気持ち。私はリオとして、仕事仲間と割り切っていたはずの後輩くんにたしかな友愛という名の愛情をおぼえました。ここが山場だったかもしれないくらいに。

 

リオの「怒り」と傲慢について

リオくんはめちゃくちゃ怒る子だった。私には制御できなかった。
まずストーリー進行上、財布をスられて死ぬほど憤慨した。そりゃそうか無理もない。彼はお金を大切に暮らす倹約家なのである。逆にこのストーリーを何も知らずに「倹約家」ってキャラ付けしてたのが奇跡かもってくらいに、見事に財布をスられた。たぶん大金が入った財布でもないし代わりに高価なものを貰ったのだがおそらく「ひとのものを盗るな」という当たり前のことで本当にブチ切れていて、しまいにはブチ切れすぎて倒れそうになっており私も困った。後輩くんも困っていた(かわいそう)。

あと、ラストシーンでも非常に怒っていた。ホラー苦手なのに怒りすぎて怖がる暇もなさそうだったし、武闘派キャラじゃないのに怒りすぎてパンチ一発で相手を床に沈めた。ジャンプの主人公か?
彼は黒幕(?)の「一緒に居て欲しいから相手を変質させて傍に置く」というやり方に心底怒っていた。これは私がジョジョ五部のブチャラティの最期にやるせない気持ちを抱いているのと近いかもしれない。尊厳ある死、みたいなものに、理想を抱いてしまっているかもしれない。あとリオにとって、幼くして養子になった妹は、当然そばに居て欲しかった家族であり、しかし彼女の幸せを願えばこそそれを受け入れ、喜び、今日まで暮らしてきた。なんかそこに許せなさがあったのかもしれない。
「全然違う生き物が、ちょっとでも一緒にいられる時間を大事にすることが、生きるってことじゃないのか。俺はそう思うけど」
そうなんだね、リオにとってはそうなんだ。私はしっかり読んだよ。(自分で打っておいて変なこと言ってると思わないでください)だからリオは毎日の暮らしを愛しているんだよね。
このとき、敵対する相手の言い分も私には少しわかるところがあり、私の皮膚は同情的になっているのにリオが怒り狂っているせいで内側が熱くて苦しかった。勘弁してくれ。私もなんとかしてほしかった。

 

最終的に求められたのは「異形になってまで一緒に暮らす」ふたりを認めるか、むしろ「誰かがその暮らしを他者に迫る」ことを許すか否か、という選択だったのだろう。たぶんこれは、人によって正義があって、きっとどっちでもいいのだ。もし変質してしまった本人がそれでもいいと言っているのだったら、ちょっとおかしな家族として認めることだって充分にできた。それがこの物語の想定されうるハッピーエンドなのかもしれない。ふだんの私だったらそうしたかも。
でも、リオはとにかく許せなかったのだろう。それが誰のためだとかいうことはできなくて、ただ、リオ・ターナーが持っている正義じゃなかった。だから結構めちゃくちゃに、強気に、怒って壊した。こぶしで片づけた。
最後の最後に破壊した『それ』を「壊したまま帰る」か「直すのを手伝う」かという選択肢があり、私は「手伝う」を選んだが、リオは「『遺骨を』拾うのを手伝おう」とわざわざ言った。彼は死んでいると宣言した。そしてダイスの出目が悪く、手伝いはうまくいかなかった。たぶん、直したくなかったんだろう。リオが二度めに殺した。

 

あとで風呂に沈みながらゆっくり考えてみて、私の創作キャラにしてはありえないくらいに傲慢だったかもしれないと愕然とした。なにも疑わず、自分勝手で、強すぎた。

なんか、ジャンプの主人公みたいだった。それも私が普段わからんってスルーするタイプの。
もしかして主人公ってそういうものなのかもしれない。私自身の中を流れる物語とは違うところで、リオという人格がそれを選んだ。そういうラストだった。

 

誰かを想うということ

最後に「家族ってなんなの」と訊かれたリオが案外あっさりこう答えた。
「目が覚めた時と、食事の時と、眠る時に、元気だといいなって思う人のことだよ」
なるほど。
これを相手の『家族』をこぶしでぶっ壊したあとに言うのは暴力主人公すぎて非道な気もするけれど、でもリオが言いたいのはたぶん、血が繋がらなくても、離れてしまっても、たとえ死んでも、無理やり傍に置かなくても、大切に思う人が家族なんだよってことだろう。

一緒にいるときを楽しみ、離れたら幸せを願う。

リオはそうなんだね。きっと妹のことを思い浮かべていたのだろうと思う。
家族というか、つまり、もっと大きく、自分以外の誰かを大切に想うということ。
それは少し私の思う『愛』と似ている。

 

でも私ここで思い出したんですよね。リオは後輩くんに言ったじゃないか、「お前の靴が濡れないほうが嬉しいよ」って。
「全然違う生き物が、ちょっとでも一緒にいられる時間を大事にすることが、生きるってことじゃないのか。」
ねえ。だからつまり、そういうことだと思うよ。今日も仕事頑張ろうね。