夢の中で私はおそらく若い男だった。
ダムのような崖のようなカーブの道に若い男女が腕を組んで、崖下を見下ろすように立っていて、私はなぜかその男が50代の女性をはねたひき逃げ犯だということを知っており、その女が被害女性の娘で、復讐するためにその男に近づき婚約者になったことまで知っていた。
知っていたが、なにをするわけでもなく、ただ知っていた。
復讐のためとはいえそんなに憎い男とつきあってるふりができるなんて、女ってやつはよくわからないなと思った覚えがある。
三人でがけ崩れかなにかに見舞われて洞窟のようなところに閉じ込められた。男は足に怪我をしたようで、私は「ああなるほど、ここで復讐を遂げるというストーリーか」と思ったが、女は意外にも手際よく助けて甲斐甲斐しく世話をしていた。
ほう。助けるんだ。
なんとか脱出し、私たちはまた別の崖の上にいた。
これは夢クオリティだが、景色はほとんどプロメテウス火山。崖の底に向かってセンターオブジアースが走り下りていくたびに歓声と悲鳴と轟音がする。
怪我をした男は車いすに乗り、女がそれを押していた。
また一台、客を乗せて落ちていくなあ、と思った瞬間、女がぽいと車いすを放った。
うっかり風船を手放すような素早さで車いすを崖下へ突き落とし、男を乗せた車いすはジェットコースターを追いかけていき、歓声と悲鳴と轟音で落ちた音は聞こえなかった。
「へ」
と私が言った。
最初から女がそういうつもりだと知っていたしそうなることはわかっていたのに、なぜかとてもびっくりした。
女を止めるつもりも責めるつもりもなかったが、とてもびっくりした。
女の顔はまったくの無表情だった。嬉しくも悲しくもなく怒ってもいない顔で、彼女は私の隣へきて腕を組み、静かな声で「行きましょう」と言った。